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“2022年”に大ヒットアニメを生み出した脚本家の話題作 魔法少女アニメなのに“リアルな現実”を突きつけた衝撃の物語

  • 2025.6.24

バンダイナムコフィルムワークスのサンライズスタジオによる新作オリジナルアニメーション『前橋ウィッチーズ』が、SNSで反響を呼んでいる。群馬県前橋市に暮らすかわいらしい女子高生たちをメインとしつつも、話数を追うごとに感じるのは現代に生きる人々が抱える生きづらさそのものだ。

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ルッキズムに依存、親からの強制、ヤングケアラーなど、女子高生が抱える問題

『前橋ウィッチーズ』は、高校1年生の赤城ユイナ(CV:春日さくら)がひょんなことから魔女見習いとして修行を始めることになる物語。カエルのような姿をした使い魔のケロッペ(CV:杉田智和)に連れてこられた先には、お花屋さんと4人の仲間が。ユイナは、新里アズ(CV:咲川ひなの)、北原キョウカ(CV:本村玲奈)、三俣チョコ(CV:三波春香)、上泉マイ(CV:百瀬帆南)と共に魔女を目指して、花屋・ドリーミードリーミーフラワーで修行を始める。ドリーミードリーミーフラワーは、無意識な願いを心に持つ人の前に現れるお店。ユイナたちはお客さんと会話しながら、願いを叶えるために、歌と花を届け、魔法を通じてお客さんの悩みを解決していく。

この物語の特徴的な部分は魔法がなんでも願いを叶えてくれる万能なものではないという点だ。第1話で医者を夢見る女子高生に対して、成績を上げたり、医者にしてあげたりするのではなく、医者になる夢を応援してほしいという本質的な願いを叶えている。

また、物語を通して見えるのは魔女見習い5人がそれぞれに抱えているままならない気持ちだ。アズはふっくらした体型がコンプレックスで、ドリーミードリーミーフラワーでは見た目を変えている。マイは依存体質な面があり、幼い頃に慕っていた友人に対してはなんでもやってあげたいと自分を押さえ込んでしまうことも。チョコは祖母と妹や弟の面倒を見ることに忙殺されており、ヤングケアラーな一面が。キョウカは親からの圧力から少しでも逃れるために、推しに傾倒し始めていた。恵まれた家庭環境だからこそ人の痛みが察せない部分もあった。第10話では、ユイナの明るく前向きすぎる性格が周りから疎まれ、友人がいないことも明らかになった。

5人は魔女見習いを通して、不器用にそれぞれの悩みに向き合っていくことになる。ただ、悩みが一気に解消されるというわけではない。向き合い方を変えたり、捉え方を変えたり、時には距離を置いたり、誰かに相談してみたり。魔法を使って解決するのではなく、自分が立ち向かい方を変えることで少しでも悩みが少なくなるようなアプローチを取っている。一気に万事解決とならない部分も含めて、魔法少女もののファンタジー要素のある作品でありながら、等身大でリアルな物語になっているのも誠実な作品といえるだろう。

朝ドラ『虎に翼』、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の脚本家の手腕

第8話でチョコとキョウカの問題が解決に向かった場面で、「そういう(つらい)気持ちって誰かと比べることじゃない、上も下もないよ」というセリフがある。このセリフを聞いた時に、『前橋ウィッチーズ』の脚本家・吉田恵里香が手がけた朝ドラ『虎に翼』を思い出した。『虎に翼』にも、明律大学女子部で学ぶ5人の女子生徒が登場し、後に進学した明律大学の男子学生からは“ファイブ・ウィッチーズ”と呼ばれていた。明律大学女子学生5人もそれぞれに悩みを抱えており、特に山田よね(土居志央梨)は不遜な態度を取り、4人と距離を置いていた。5人の仲が縮まるきっかけも、よねの過去を知ったうえで、桜川涼子(桜井ユキ)、大庭梅子(平岩紙)、崔香淑(ハ・ヨンス)がそれぞれにつらいことを言い合う場面がある。両作品からは、生きていく上で感じるつらさに重いも軽いもないこと、人それぞれ抱えた苦しみがあり、それを否定する資格は誰にもないことが伝わってくる。

吉田恵里香は、ドラマ、アニメ、映画と幅広く活躍する脚本家だ。オリジナル作品では社会を見つめる真摯な視線を感じる作家性を持ちながら、高い構成力を持つ脚本家でもある。2022年末に大ヒットし、劇場版総集編も好評だったアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』では、原作要素を生かしながらも、1話ごとの山場とキャラクターの感情の動きを重視した構成の変更、主人公のみにモノローグをつけることで、セリフがないからこそ深く伝わる感動を演出している場面もあった。『前橋ウィッチーズ』では、ユイナ以外の4人を均等に描きつつ、あえてユイナの問題を終盤に描くことで、5人の関係性をより深く価値あるものに見せるという手法を取っている。

朝ドラやアニメ、ドラマ、映画など、さまざまな尺の映像作品を手掛けてきたことで、物語をどう見せて、どこにポイントを置くのかが的確だ。SNSでは、「それぞれの悩みが胸に響く」「社会性が高くて面白い」など、吉田の高い構成力によって、作家性が視聴者により響いているようだ。


前橋ウィッチーズ
ABEMAにて1話〜11話は6月26日まで無料放送
最終話は6月28日まで無料視聴できる。
[番組URL]https://abema.tv/video/title/13-200
【(C)PROJECT MBW】

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202